到達目標と講座概要
700年の歴史と変化を通して学ぶ、「現代に生きる能」の魅力
現在、内外の芸術界から熱い視線が注がれている能楽(能と狂言)ですが、その長い歴史のゆえに、能楽についてのわたしたちの理解はいささか表面的で、画一的なものになっています。それは今にはじまったことではなく、400年は昔にさかのぼる現象ですが、この講座では、本学の春秋座で上演されてきた能のなかから1曲をとりあげ、その映像を用いて、能の作者、上演史、素材、テ-マ、趣向、演出、変化、逸話などについてじっくりと学び、「能」という舞台芸術の特色と魅力を伝えたいと思っています。今回は『井筒』をとりあげます。これから能を知りたいと思っている方、能についてもう少し深く知りたいと思っている方の受講を歓迎します。なお、毎回、最後の30分を質問にあて、5回のうち1回は演者をお呼びします。
講座詳細
まず、『井筒』という能を理解する場合、講師が思いつく問題点を順不同で列挙しておきます。この講義でふれるものもあれば、ふれないものもありますが、受講の参考にしてください。また、これは毎回予定されている質問の参考にもなると思います。
①『井筒』のシテが紀有常女とされ、その夫が在原業平とされていること。
②『井筒』の舞台が大和の在原寺であること。また、在原寺は現存するのかどうか。
③前場で里女(紀有常女の化身)が語る物語が、〔高安通い→筒井筒の昔語〕の順になっていること。
④紀有常女の舞(序ノ舞)は「移り舞」と呼ばれているが、この「移り舞」はどう解釈すればよいのか。
⑤序ノ舞の前の文句が流儀によって「恥ずかしや」と「懐かしや」と異なること。
⑥『井筒』一曲における序ノ舞の意味について。
⑦後場に紀有常女の霊が業平の直衣と冠を身につけて登場すること。
⑧『井筒』の小書(特殊演出)とその意図について.
⑨『井筒』の作り物(舞台装置)の薄がついた井戸について。
⑩紀有常女の霊が井戸の作り物を覗く場面の演技について。
⑪観世寿夫(昭和53年没/享年53)と『井筒』について.
⑫『井筒』の前場と後場の関係、あるいは夢幻能という形式について。
⑬作者の世阿弥は『井筒』をどう評価していたのか。
⑭『井筒』に仕組まれている趣向(演劇的工夫)について。
⑮『井筒』が描こうとしていること(主題、テーマ)について。
⑯『井筒』がわたしたちに与える感動の質について。